「横溝正史少年小説コレクション⑥姿なき怪人」（横溝正史）

一つの完成形にたどり着いた横溝ジュヴナイル

「横溝正史少年小説コレクション
　　⑥姿なき怪人」（横溝正史）柏書房

人混みのクリスマスの街。
サンタクロースの格好をした男が
メリヤスシャツの男に
追いかけられて走ってくる。
どうやら映画の撮影らしい。
やがてサンタは車で
その場を立ち去るが、
その正体は
まぼろしの怪人であることが
判明し…。
「まぼろしの怪人」

「まぼろしの怪人」（横溝正史）

｢使い回し｣ではなく｢換骨奪胎｣「まぼろしの怪人」（横溝正史）（「横溝正史少年小説コレクション　　　　　　⑥姿なき怪人」）柏書房「横溝正史少年小説コレクション⑥」「まぼろしの怪人」（横溝正史）　角川文庫「まぼろしの怪人」角川文庫人混みのクリスマスの街。サンタクロースの格好をした男がメリヤスシャツの男に追いかけられて走ってくる。どうやら映画の撮影らしい。やがてサンタは車でその場を立ち去るが、その正体はまぼろしの怪人であることが判明し…。柏書房刊｢横溝正史少年小説コレクション｣もすでに第6巻が発売となりま...

横溝正史のジュヴナイルを集めた
｢横溝正史少年小説コレクション｣
第6巻は、4話からなる
連作短篇集3作品を集めたものです。
これらはすべて中学生を対象とした
学習雑誌｢中学一年コース｣
｢中学二年コース｣に収録されました。
長編で1年継続するよりも、
3ヶ月(3回分)で1話が完結し、
1年で4話を収録するという方法が、
中学生には読みやすかったのだと
思われます(横溝にとっても
書きやすかったのではないか)。

法医学の権威･板垣博士に
恨みを抱く｢姿なき怪人｣は、
博士の周囲の人間を
次々に狙っていく。
博士が後見人となっている娘･
吾妻早苗を手始めに殺害すると、
その次には博士のいとこ、
さらには博士の双子の姪にまで
魔の手が伸びて…。
「姿なき怪人」

「姿なき怪人」（横溝正史）

怪人の正体を読者に推理させるジュヴナイル「姿なき怪人」（横溝正史）（「横溝正史少年小説コレクション　　　　　　⑥姿なき怪人」）柏書房「姿なき怪人」（横溝正史）（「姿なき怪人」）角川文庫法医学の権威･板垣博士に恨みを抱く｢姿なき怪人｣は、博士の周囲の人間を次々に狙っていく。博士が後見人となっている娘･吾妻早苗を手始めに殺害すると、その次には博士のいとこ、さらには博士の双子の姪にまで魔の手が伸びて…。横溝正史のジュヴナイルを集めた｢横溝正史少年小説コレクション｣ももう第6巻となりました。収録されている3篇...

怪盗が美術品を盗み出す｢盗難事件｣は、
乱歩が徹底的に
やり尽くしてしまったからでしょうか、
それとも横溝にとっては
｢殺人事件｣の方が
性に合っていたからなのでしょうか、
3作品とも
ジュヴナイルでありながら、
殺人事件が続発します。
それにしても学習雑誌に
殺人事件を扱った推理ジュヴナイルを
掲載できたのは、
時代がおおらかだったからでしょうか。
現代なら各方面から
非難されるのではないかと思われます
(それ以前に学習雑誌が
存在していないのですが)。

御子柴進が原稿を受け取るために
訪問すると、
画家･永利は殺害されていた。
現場には｢X･Y･Z｣の血の文字が。
もしや犯人は都下を騒がせている
怪盗X･Y･Zか？
しかしその怪盗は
手荒なことをしない
紳士怪盗として
名を馳せていた…。
「怪盗X･Y･Z」

「怪盗X･Y･Z」（横溝正史）

新たなキャラクターを確立させた怪盗X･Y･Z「怪盗X･Y･Z」（横溝正史）（「横溝正史少年小説コレクション　　　　　　⑥姿なき怪人」）柏書房「怪盗X･Y･Z」（第1話～第3話）（横溝正史）角川文庫「怪盗X･Y･Z」（第4話）（横溝正史）（「横溝正史探偵小説選Ⅱ」）論創社御子柴進が原稿を受け取るために訪問すると、画家･永利は殺害されていた。現場には｢X･Y･Z｣の血の文字が。もしや犯人は都下を騒がせている怪盗X･Y･Zか？しかしその怪盗は手荒なことをしない紳士怪盗として名を馳せていた…。横溝正史が執筆した最後のジュヴナイルである｢怪...

まぼろしの怪人自体は
紳士的な怪盗なのですが、
別に殺人鬼を登場させて
第3話第4話で
殺人事件を起こさせています。
次の姿なき怪人は、
怪盗などではなく最初から殺人を犯す
殺人鬼としての設定です。
それではまずいと思ったのか、
怪盗X･Y･Zは
紳士路線に戻しています。
それだけではなく、
殺人事件を解決する側に回っています。

3作品における
｢怪人｣の人物設定を見るとき、
横溝がジュヴナイルの在り方に
苦心したのではないかと推察できます。
｢怪盗X･Y･Z｣で一つの完成形に
たどり着いた横溝ジュヴナイルですが、
松本清張をはじめとする
社会派ミステリの台頭により、
横溝作品は急速に
その影を薄くし始めます。
結局、横溝のジュヴナイル執筆は
この3作品で幕を閉じるのです。

さて、
｢横溝正史少年小説コレクション｣
最終巻が発売になりました。
最終巻には角川文庫旧版にも
論創社｢横溝正史探偵小説選｣にも
収録されなかった
｢南海囚人塔｣｢南海の太陽児｣、
海野十三の後を継ぎ書いた
｢少年探偵長｣が収録されています。
お正月の楽しみが増えました。

（追伸）
コロナに振り回された
一年となりました。
自宅にこもって
ミステリを読みあさった関係で、
横溝正史をはじめとする
古い探偵小説を取り上げる頻度が
高くなってしまいました。
来年もまた良い本と
数多くの出会いを果たしていきたいと
考えております。
それでは皆様、
よいお年をお迎えください。

（2021.12.31）